風のささやき

古語り|風を祀る村

潮風の村
その丘には
太古の風の神をたたえる祭壇があった

傍らには老いた樫の木が
従順な番人のように風を聞いていた

村を見下ろせる
子供たちの楽しい遊び場でもあった
潮風の村
村にはいつも
ラベンダーに薫る風が吹き下ろした

やまない木々の葉擦れの音が
違うことのない村の調べだった
潮風の村
白い洗濯物が風になびきだすと
村人はその丘を目指した

畑でとれた作物を石壇にささげ
明日のパンを祈った
潮風の村
次の日にはなにもない石壇に
風の神がお持ちになったと
村人はうわさし
心穏やかに月明りだけの夜を眠った
潮風の村
広々とした牧草地で
争うこともなく草を食む羊の
姿を真似た雲が
穏やかな空に浮かんでいる
潮風の村
羊が魂になると
弔いの風が強く吹いて
空へ運ぶのだと
老人たちは言う
潮風の村
あの丘は
空への入り口でもあった 
潮風の村
父親の仕事を手伝う
羊飼いの少年が
木の杖を手に
あくびをしている
潮風の村
その少年も毎日のように
丘にのぼり遊び

祖母から物語のように聞いた
村を守る風の神を
いつしか見たいと思った
潮風の村
だから樫の木が鳴るたびに
そこにいるのではないかと
はっとして見上げた
潮風の村
石壇にはもう誰も読めない
古の文字が刻まれていた
 
羊飼いの少年はそっと指先で
その文字に触れた
潮風の村
「風はいつでも
 おまえたちを見守らん」
 
樫の葉が鳴り
今日もラベンダーの薫風が
丘から村へと吹いていた
潮風の村
野道に咲く名もない花のように
この村の賑わいになる
潮風の村
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