風のささやき

一生懸命に

布団の中で読み聞かせをしたら
この虫を救ったのだと
天道虫の絵を指さす子供

赤い背中に黒い星ではなくて
黒い背中に赤い星の方だと教えてくれた

どこで助けたのと尋ねると
ベランダの水をはった大きなバケツに
浮いているところを助けたのだと言う

確かに僕もそれは見た
この前の土曜日に洗濯物を干している時に
黒い背中の天道虫が水の上に浮いていたのを

僕はてっきりと死んでいると決めつけて
そのままにしていたのだが
洗濯物を取り込む頃には
天道虫の姿が消えていた
水の中に沈んだ位に思っていたのだが
君だったのか

僕が見過ごした小さな命を
知らぬ間に君が救ってくれたのか
ちょっとした驚きと共に
それは良いことをしたねと褒めると
嬉しそうに けれど
当たり前のことをしたのだと言いたげに
すました顔をした子供

本当に君は良いことをしたね
すべての命のある物は
生きることに一生懸命なのだ
それはどの命でも変わらない
人間も君の救った天道虫も
ベランダの植木鉢に
生え放題の雑草も

君だって一生懸命に頑張っている
その一生懸命さ
まだ簡単に背負えるから
そうは感じないかも知れないけれど

ついついみんな
自分だけが一生懸命なのだと
思ってしまう 苦しいからね
けれど一生懸命なのは誰もが同じ

一生懸命のやり方
間違えてしまう時もある
はたから見ればおかしく見える
僕も一生懸命に生きてはきたけれど
間違えた数だけしか君には誇れない

頑張っていない命はいない
だからすべての命に優しくすることは良いことだ
いつかそれが自分に返ってくる時もある

君が水から救いあげた天道虫は
空に向かって翅を広げて
どんなに深い空の広がりを
その目に映したことだろうか

いつの間にか色々なことを考えている
君を頼もしく思っている

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