床屋
一緒に年を取っていく 床屋に髪を切られている 僕はただ黙って目を瞑っている 「いつもの髪型」ともう告げたから 忙しく動いている鋏から 切られてはハラハラと落ちて行く 僕の髪はここ数か月の生きられた証 外では至る所で紫陽花が咲いている 今日は天気も良くて陽ざしが強すぎた 僕はさっきまで軽く頭に汗をかいて ここまでやって来て 見覚えのあるドアを押した そろそろ髪が重く感じられた 鬱陶しさが頭にへばりついていた それをどうにかしようと 頭を掻いてみたり首を傾げてみたり もういい加減に無理だった 何も語らずに僕の髪を整えて行く床屋 きっと誰よりも僕の髪の毛のことを知っている その張りや艶、髪の癖 もしかすると《衰えたなと》と 心の中では囁いているのかも知れない すっかりと僕は髪の毛を 切れ味の鋭いはさみに委ねて そのひと時だけは 言葉の無い濃厚な会話を交わしている 客である僕と床屋と 《すっきりとした》を手に入れて 僕はさっき来た道を帰る 僕はまた僕の時間を重ねて お客さんを満足させて 《ほっと》と対価を手に入れて 床屋は床屋の時間を重ねる また何か月後にはここで会わん