風のささやき

夏の朝に

夏の雲が随分と早く流れている
目まぐるしい一日の始まりに追いつこうと
時計の針を忙しく回して時間を合わせるかのように

その文字盤に乗って一日をせわしく回り続ける
人の群れに混じって交差点を渡っていく
僕の目にはその速さの故にか
時折雲が眩しさを垂直に立てる
交差点を走り過ぎる自動車が
太陽を一瞬反射して走り過ぎるような
眩しさの立像が

先ほど上った朝日のかけらは
東京タワーの先端に破り取られて
風になびいている
そこだけがひときわ明るく輝いて見える

まだ作業が始まる前の
工事現場は静けさに満ちている
やがて騒音に汗が光る現場で
安全第一の標語を
その通りに心に唱えながら
働いている人はどれぐらいいるのだろう
人はそれぞれの妄想癖に浸りながら
仕事<らしきこと>をしている

暗い喉の奥に飲み下されて行った
語られなかった言葉の数々の
その上に立派なビルが建つ
夏の陽ざしが窓の一つ一つの上に輝く
それは祝福なのかそれとも
何かを作ることを止められない
人への憐みなのか
<随分と昔はこの辺はあばら家と飲み屋と
酔っ払いの愚痴と笑い声とで混然として
それはそれで楽しかったのだけれどね>

雲の急ぐ先には何があるのか
きっと今日とはあまり変わらない
明日の今頃
同じように交差点を渡る人の波

今日の陽ざしを受けて汗ばんでいる
僕は腕時計を見る
秒針に急かされている
雲が川の流れのように早い
僕は僕のできることをする
昨日の屍の上にせめて砂上の楼閣を立てて
僅かばかりの苦労の汗を定礎に据えて
波しぶきの向こうからそれを目指して
集まる者もあるだろう

僕の急ぐ先には何があるのか
ここちよい夏の風と十分な陽ざしと
早い雲を流していく青空の静けさと
この世へのあらん限りの賛歌とを

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